16年に亘る結婚生活に終止符を打ちアルコール依存症の日本人の夫による家庭内暴力から逃れる様に高校進学を控えた娘と小学校高学年の2人の子供を連れ身の回りの物だけを持って家を出たのは私が30の中ばだった。

当然夫からの経済的なサポートは一切無く、当時私はロスアンジェルスに在る某日系商社で働いておりそこから得る収入だけでアパートの家賃を払い子供と私の3人が食べて行くのは難しく会社には内緒で仕事が終わると向かいのビルの中に在るホテルの土産物屋でパートとして働き、週末は新聞広告の求人欄で見付けた掃除婦として働き現金収入を得て何とか暮らしを続けていたが薄氷を履む様な日々だった。

その様な暮らしが1年程続いた年末に私は悪性の風邪に罹りとうとうダウンした。幸いな事にクリスマス休暇と新年の休暇の時期で仕事を休み穴を開けると云う事だけは避ける事が出来たがベッドに仰臥し天井を見つめ将来子供達に大学教育を受けさせ世の中に出す事を考えると心細さが募った。

無理が祟って寝込んだ時にこのままの生活を続けて行く事は自殺行為と身に染みて感じ、崖っぷちに立たされた私は何とか食べる事だけでも出費を減らせないかと考えた挙句に思い付いたのはデートをする事だった。

其れ迄子供を育てる為にがむしゃらに働き家と職場を往復するだけだった私は未だ30代後半とは言え心身は疲弊し子連れ無理心中予備軍に属して居た

鏡に写った自分自身をしげしげと観察し「市場価格」も未だそう悪くはないと計算した私は友人達から紹介された男性とデートを始めた。 

計算通り彼等は先ず食事に誘うので最初の頃は良く中華料理店を選び

「私アレも食べたいわ、コレも頂きたいわ」

と多めに注文すると殆どの男性は女の前では太っ腹な所を見せ鷹揚に

「いいよ、いいよ食べなさい」

と勧めて呉れる。

しかし私の計算は当然食べきれずに残ったものは全て持ち帰り家で待っている食べ盛りの子供達の食料とする訳で、しかも同じ男性とのデートは2回までが鉄則。何故なら男は2回目のデートまでは紳士で通すが3度目からは「侍れ」と暗黙の了解の如く振る舞い、4回目のデートでは

「ベッドルームへ行こう」

となる。

そう云う事が数年続き私は百戦錬磨の強かな女になりつつあったが、丁度その頃給料の見直しに伴い今で言う所の「働き方改革」が本社から指示され私の給料も随分と上がって暮らし向きは少し楽になり3つの仕事を掛け持ちでやる必要も無くなった。

私が働いて居た会社のロスアンジェルスに在る関連会社の社員から9年前に妻を亡くした男性を紹介された。

その頃娘は州外の大学に入ったばかりで家は息子と私の二人暮らしとなり、もう結婚など真っ平ご免と心底思っていた私は不遜にも相手の意向など全くお構い無しにこの男性と会う時は当然の様に息子連れで1週間分の洗濯物を抱えて出向き彼の家に有る洗濯機やドライヤーを無料で使わせて貰いハイ左様ならと帰っていたが、ここに大きな落とし穴が有って長年男の愛情に飢えて居た息子は直ぐにこの男性に懐いてしまった。

外堀を埋められた様な状況になりこの男性から結婚を申し込まれた時は嬉しいなどと云う感情は無く

「なんで私が貴方と結婚しなければならないの」

と云う意味不明の怒りであったが、今振り返って思えば最初の結婚で辛酸を嘗めた私は男性に対する憎しみと不信感の固まりになって居た。

この事を日本に居る母に電話で報告した時に母は

「まあ、よかった!直ぐに結婚しなさい」

と言った。 

「でも相手はアメリカ人よ、会った事も無いしどんな人だかお母さん知らないでしょう」

と反論する私に

「アメリカ人でも何人でも結構。今はそうやって男性が食事に誘ってくれるけど後10年経ってごらんなさい、誰も貴女を誘ってはくれないのよ。第一貴女の身に何かあったらこれから一体誰が二人の子供達を育てて呉れるの」

と畳み掛けて来た。

相手に対して愛情など全く無いと言う私に更に母は

「愛情なんか無くてもいいの。上手く行かなかった時は子供達を大学に出して貰ったと感謝して別れればいいの」

と爆弾宣言をした。

渡りに船とばかりに計算ずくで結婚した私だったが夫の両親や義兄は私達親子を暖かく迎え入れ、孫が出来たと喜び可愛がってくれた。日々の暮らしの中で温かな家族に囲まれ私の心も次第に穏やかさを取り戻し人間としてのあるべき姿へと変わって行った。

結婚に踏み切った時に私の預金残高は千ドルのみで翌月の家賃を払えば殆ど残らない状態だった。追い詰められた挙句に日本人の夫と別れ、養育費も慰謝料も無い中でその後8年間を子供と共に必死で生き、アメリカ人と結婚し共に暮らす日々は22年となりあの時母が背中を強く押してくれなかったら今の私はなかったと母に感謝し、無条件で私達親子を受け入れてくれたアメリカ人の懐の大きさと夫や今は他界した夫の家族に心から感謝している。

Posted by:ayakopiper