今年の春我が家の玄関の軒先に小鳥が巣を作りました。

本当に小さな鳥でどんな種類の鳥なのか名前も知りませんでしたがやがて5つの卵を産み母鳥は一生懸命卵を温め、巣に座り続ける母鳥の為に時には父親らしき鳥が餌をその母鳥に運んで来ていました。

どれ位経ったのでしょうか正確に日数を数えた訳ではありませんが、やがて卵は孵化し小さな5つの頭が巣からほんの少し覗く様になり、母鳥は忙しそうに餌を求めて飛び回り再び巣に戻っては子供達に食べさせ、又再び餌を探しに飛び立つと云う事の繰り返しです。

見ているとまるで人間世界の産休から職場に戻った女性の様で、仕事と育児と家庭を両立させると云う至難の技を一人でやっているスーパーキャリアウーマンの様です。

兎に角雛を安全に育てる事に必死で私達が玄関のドアを開けて外へ出ようとすると母鳥は巣から飛び立ち様子を伺いますので母鳥に余計な心理的ストレスを掛けさせない為、それ以来私達は多少不自由でも裏のドアから出入りする様にしました。

ある日玄関で鳥の鳴き声がしきりとするので窓に目を向けるとブルージェイが来て母鳥を攻撃しているではありませんか。

慌てて玄関のドアを開けて外に出て見ると母鳥はコンクリートの床に落ちていて私が拾い上げ手のひらに乗せると最後の息を一つして死にました。

雛を守る為自分の身を顧みず自分よりも数倍も大きなブルージェイに果敢に立ち向かい、刃折れ矢尽きて死んで行った親鳥を見ると何としても残された雛たちを助けなければと云う思いが湧き上がり、主人は高い梯子を持って来て残った雛たち全部を取り敢えず家の中に入れました。

朝顔につるべ取られてもらい水、5つの卵が孵化したものの1羽はブルージェイに食べられ母鳥と共に死に、4羽となった兄弟達は小さなタッパーウエアの新しいベッドの中で身を寄せ合う様に丸くなって震えていました。

鳥を飼った経験も無く、ましてや未だ羽毛も生え揃わないハゲタカの様な体でかすかな息をしているこの雛たちに一体何を与えていいのか全く知識が無いので取り敢えずインターネットで検索した結果、地中のミミズ、ハエ、蚊、ひまわりの種をすり下ろし水を加えてドロドロにしたもの、ゆで卵の白身を切って裏ごしにしたもの等が良いと書いてあったので主人が庭に出てミミズを採って来て

「Hey guys、This is today’s special!
“chatch of the day”」

なんて言って細かく切って与え、私は丁度家にあったオーガニックの無塩ひまわりの種をすり鉢で擦ってそれに蜂蜜と水を加えてドロドロにしたものをピンセットの先で口に入れてあげました。

 (c) Ayako
©Ayako

朝顔につるべ取られてもらい水

(c) Ayako
©Ayako

未だ孵化してそう日数が経っていなにので嚥下が上手に出来ずすぐに嘴を閉じてしまうので兎に角脱水状態になる事だけは避けなければならず、インターネットで得た知識を元に水を嘴の横に1滴落とすと口を開けて上手に飲むのを見て私も主人もホッと胸を撫で下ろしました。

これを1日に15分置きに繰り返す為私たちの食事は後回しとなり雛中心の暮らしへと傾き、年寄り夫婦がのんびりとリタイア暮らしをしていて本当に良かったと思いました。

2週間を経た今では食事の間隔も徐々に長くなり食べ方も上手になって私たちの顔を見るとピーピーと嘴を開けて鳴く様になり現在では「お食事回数」は1日に5回ほどで済む様になりました。

雛を育てると云う経験を通して自分が若かった頃必死で我が子を育てていた頃を思い出します。

最初に笑った時、バブバブと意味不明な言葉を発した時、捕まり立ちが出来た時、歩き始めた時、懐かしい至福の時が波の様に押し寄せて来ました。

お腹が空けば雛達は嘴を大きく上に向けて開け羽をバタバタ震わせ狂った様にピーピー鳴きます。

ピンセットの先で摘んだミミズなどを口元に持って行くと貪る様に食べる姿がテイーンエージャーだった頃の息子の姿と重なり、学校から帰ると

「ただいま」

よりも

「お腹すいた」

と云う言葉が先に出てひとしきりお八つを「食べた後で」

「ご飯未だ?」

と言っていた声や姿が鮮明に蘇りました。

そうやって我が身を削る様にして育てた我が子もやがて「親批判」をする様になります。

その頃は未だ良かった、その内物を言わなくなり図体だけは巨人の様になった息子が私の横に立っていて見上げ乍ら

「何?」

と尋ねればヌーっと手だけ出して「お金」と言う。

全く私は金蔓以外の何者でも無いのだと認識させられる日々。

そして痩せ衰えた親のスネをかじられるだけ囓った挙げ句の果てにある日突然

「僕、結婚したよ」

の一言。

奈落の底に突き落とされたショックで寝込んだ思い出が苦い涙と共に蘇りました。

お爺さんは庭にミミズを探しに行き、お婆さんはイソイソとひまわりの種をすり鉢ですり、

「雛ちゃんお口あ〜んしてごらん」

と言いながら幸せに暮らしました。

Posted by:ayakopiper