日本に一人で住んでい私の母は来月で満90歳を迎え、足腰丈夫な彼女は頭はボケたとは言え自分の身の廻りの事はほぼ全部一人でやっており、公共の交通機関を利用して自分の行きたい所へは市内であれば問題無く行っています。 

勿論これは週3回来て下さる訪問ヘルパーさんに買い物や掃除それに調理の一部をお願いし、加えて週3回通っているデイケアでの体と脳のトレーニングの成果であることは否めません。

しかし母が元気とはいえ、90歳と云う高齢を考えますといつ何時死が訪れても不思議ではなく、特に私の様に太平洋を隔てて13時間も時差がある所に住んでおり一人っ子であるため兄弟姉妹はおらず他に身寄りが無い者は母の死に備えて十分な経済面と精神面両方の準備を整えておく必要があります。

そう云う私も来年は古希を迎える歳になり、嘗ては人間の生命力が70歳までも保てなかった事から古代稀なりと言われた70歳と云う年齢に達し、下手するとこちらが先にあの世行きとなるかも知れません。

私の周りで次々と知り合いが亡くなって行く現実を見ていますと残された家族は慌てふためいて葬儀に奔走するのが常で、その方々から伺った話で親の預金が引き出せず大変困ったと云う事です。

何しろ通帳や印鑑の保管場所も分からず、例え運良く見つけ出したとしても死んだ本人の口座が凍結されてしまえばビタ一文たりとも金は引き出せません。

何故銀行は家族が困ると分かっていながらこうも頑なに例え直系の身内といえども一旦口座の名義人が死亡したと分かるや否や一切金を引き出せない様にするのかと言いますと、預貯金は相続財産の一部であり、相続手続きが完了するまでは一切引き出せない上に、生前口座の名義人が誰かに借金をしていた場合は借りた金を払う義務が有り、その義務を終えるまでは家族といえども絶対に金を引き出すことは法律上出来ないのです。

それじゃATMマシンで引き出せばいいじゃないかと仰るかもしれませんが、昨今のオレオレ詐欺が横行する現状で政府も銀行もこれに対応すべく本腰を入れて規則を強化し、2年程前までは1回に何百万円と云う額であっても制限なしに残高が有る限り降ろせたのですが、これを1回に引き出せる最大限度額を50万円とし、1日最大200万円までと定めています。 

病院や葬儀社への支払いが迫っていてどうしても現金が即必要となった場合、死んだ親の口座から4回以上に亘って引き出しを試みようとすると銀行が直接口座本人に連絡をし確認をします。

そうすると死亡した親の口座から法に反して引き出しをやろうとしたとしてこれは歴とした犯罪となります。

その間亡くなった親の金は使えず、周囲が立て替えてくれたお金を清算することも出来ず私の友人の場合は1年以上に亘り銀行口座を封じられたままでした。

ではどうやって親の銀行口座をきちんと整理して閉鎖出来たかと言いますと、先ず銀行は親の親つまり祖父母の代にまで遡ってその戸籍謄本の提出を義務付けています。

ここで祖父母の戸籍謄本を如何にして入手するのかと云う疑問が生じますが、この記事をお読みのあなたはご自分の祖父母の本籍地をご存知でしょうか? 

大方の人が「知りません」と仰しゃる筈です。 

この祖父母の代にまで遡って本籍地を探すと云うことがどれ程大変な事かやった方はよくその苦労をご存知の筈です。 

女親の場合婚姻により姓が変わりますし、養子縁組をした場合もあり、自分が知らない遠い昔に親が再婚していたとかで姓が変わった場合もあり、友人の場合は親が満州から引き揚げて来た当時の記録がきちんとなされていなかった為に自分でこれをやるのは無理と判断しそれ専門の業者に委託し突き止めたのですが、相当の費用が掛かったそうです。

しかしこの祖父母の戸籍謄本無くしては物事は一歩も前には進まないのです。

親の死、それに始まる各方面への死亡通知、葬儀、初七日、初盆、一周忌など瞬く間に時間が過ぎて行きます。

限られた時間の中でこれだけの事を遂行しなければならず、加えて残された家族の相続手続き等が始まり一連の作業で心労と身体的疲労は大変なストレスとなります。

では親の口座が凍結される迄に打てる手はあるのでしょうか。

これについて母と銀行の担当者と私との3名で面談をし得た知識では銀行預金と違い保険金は受取人固有の財産で凍結される事はなく、保険金は請求後3日から1週間で振り込まれるので葬儀費用の他当座の支払いに充当できます。

又高齢化が進み様々な問題が起きているので銀行と生命保険会社が提携し新しい商品を販売し始めていますが、私の母の場合は彼女の普通預金口座へ毎月入る年金の振り込み額に加え当座使う額だけを残し、あちこちの銀行に分散されていた口座を一本化して銀行が管理する生命保険型預金とし生命保険の受け取り人を私の名義にしました。

2年前母を訪ねて実家に滞在していた私は或る日新聞に掲載されていた法律相談の中の「公証役場」の記事が目にとまりました。

「公証役場」或いは「公証人役場」と呼ばれているこの組織は簡単に説明すると公正証書の作成、私文書の認定などを行う官公庁で、公証人は実務経験を有する法律実務家の中から法務大臣が任命する公務員です。

母が作成して貰った公正証書遺言とは遺言者が公証人の面前で遺言の内容を口授し、それに基づいて公証人が遺言者の真意を正確に文章にまとめたものです。

公証人は多年裁判官、検察官などの法律実務に携わって来た法律の専門家で正確な法律知識と豊富な経験を有しているので複雑な内容であっても法律的に見てきちんと整理された内容の遺言状にします。

この公正証書遺言を作成する為には、母の場合不動産は有りませんので固定資産税に関する書類や不動産の評価額も不要ですが、銀行預金残額に対して手数料が掛かり持参する必要書類は以下の通りです。

1)遺言者本人の本人確認資料として印鑑登録証明
2)母と相続人である私の続柄がわかる戸籍謄本1通
3)銀行預金証明

以上の3つの書類を携えて遺言者の真意を確保する為証人2人の立会いが義務付けられていますので私と母を長年に亘り良く知っている方に一緒に公証役場に行って頂きました。

公証役場で遺言状を作る為の相談料は無料ですが、手数料は法律で定められている以下の額です。

目的財産の価格 手数料の額
(母の場合銀行預金のみ)

100万円まで 5,000円
200万円まで 7,000円
500万円まで 11,000円
1,000万円まで 17,000円
3,000万円まで 23、000円
5,000万円まで 29,000円
1億円まで 43,000円

となっており、生命保険は受取人名が契約時にきちんと明記されているので契約額が例え何億円と云うものであっても手数料の対象にはなりません。

遺言状作成と言いますと皆さんの中には弁護士事務所に於いて高額な費用を支払って作成して貰うものと云う感覚がお有りでしょうが、日本国民として税金を納めている人なら誰でもこの様な公共の機関を通して正しい遺言状を作成して貰えます。

この遺言状さえ有ればいつ何時親や配偶者が亡くなってもこの書類さえ持参して銀行へ行けば面倒な祖父母の代まで遡って得た戸籍謄本等無くてもその場で直ぐに預金が引き出せると云う訳です。

母が2年前にアルツハイマー型認知症と診断された時期と私が偶然目にした新聞の法律相談記事で公正証書遺言状について知ったのがほぼ同じ頃であった為、母が未だ自分の意思決定がちゃんと出来る内にこの遺言状を作成する事が出来たのは私達親子にとって本当に幸運でした。

死は誰にでも平等に訪れます。

しかも年の順に死ぬとは限りません。 

残された者が慌てふためいてしっかり考える時間も無い内に葬儀屋の言うがままに不必要とも思える高額な葬儀をやらざるを得なかったと云う事がない様に葬儀についてもしっかりと計画をしておく必要があります。

前回の一時帰国で私は3軒の葬儀屋と面談をし母の葬儀について予約をして参りました。

母の年になれば学友も幼い頃の友達も仕事仲間も殆どが死に絶えているか、ご存命であっても葬儀に参列する体力も残っていないと云う方ばかりですから参加者の人数は限られており、従って調達する料理の数や宿泊者用のレンタル寝具の数も容易に把握でき、極限られた家族葬の形となります。 

葬儀代金はクレジットカードでの決済が可能ですが、お寺さんに関しては現金のみの支払いが義務付けられており凡その額は葬儀社を通して知る事ができますが、矢張り直接頼むべき寺へ訊ねる方がより正確な額を事前に把握できます。

私も母も比較的プラクティカルな考え方の持ち主ですからこの様な死後に訪れる諸問題については生前にきちんと決めておくという方法を選んだ訳ですが、どの様な葬儀が希望か、誰と誰に知らせて欲しいか、形見分けは誰に何を残すのか等明確なリストを作成しておく事が大切だと思います。

生命保険の受取額には相続税の非課税枠が設けられている為、受け取った金額が非課税の範囲なら相続財産には加算されません。

非課税は相続人1人につき500万円まで。 

例えば妻、長男が相続人なら500万円X2=1,000万円
妻、長男、長女の場合は500万円X3=1,500万円まで非課税で保険を受け取る事が出来ます。

相続税を申告するのは相続の開始があったと分かった日の翌日から10ヶ月以内ですから1周忌が来る前にやらなければなりません。

Posted by:ayakopiper